フィルターがかかったようなぼやけた画面。ギターのカッティング音とともに次第に焦点が合っては、綺麗な薄い色の髪が輝く。
画角上、舞台上のおそらく片隅に、スタジオカメラマンならお馴染み白い「ハコ」に座る彼が現れた。
はだけた黒シャツの衣装に身を包み、ヘルセットをしたBTSのJIMINは、薄暗くて青紫のライティングを受けながら、ソロ曲を歌い出す。
君の退屈な表情 退屈なつま先 今だけは僕を見てよ
ジミン越しの背景、舞台中央に映るのは、服を着た一体のマネキンだ。中低音が目立つ、セクシーなその声を響かせながら、マネキン近づいていく。
マネキンにかけられたスカーフ、帽子、長い羽織を踊りながら、彼はひとつずつ、自らの体に身に纏っていく。
衣服を手にするときに隙間隙間で垣間見える、指先まで研ぎ澄まされたその仕草は、とても美しい。
君の好みを教えてよ 僕のことを選んで使えばいいんだよ
その衣服を纏っていた時間は、一瞬だった。あっさりジミンは身に着けたそれらを、脱いでいく。
長い羽織を高く、投げ捨てた。
君を連れていくよ 全く新しい世界に
パレットの色を混ぜてフィルターを選ぶ
どんな僕が欲しいの
君の世の中を変化させる 僕は君のフィルターだから 君の心にかぶせて
全てを脱いだ彼は、また始まりの黒シャツのJIMINに戻った。
耳元で囁かれているかのような、「OK」という吐息が、聴こえる。
現れたのはバックダンサー。大きなサングラスを受け取っては装着するジミン。されどあっという間にそれも外しては、ジャケットを羽織ってはまた脱いでいく……。それはお気に入りの人形に、自分の好みの衣装を何度も着せては変えているみたいに。かたや彼はまるで求められる愛に服従しては、翻弄されているかのように。
けれど、従順なはずの可愛らしいその男の子は、曲中で変異する。強気な女性を口説くとき、マウントをとってくるかのような意地悪な声が、聴こえる。
いつも同じなんてつまらないじゃん
その通りだ。人生において退屈は、つまらない。
私たちは、欲張りだ。たくさんの色に彩られたいし、色に染まる君が見たい。
カムバックのたびに「新しいお姿をお見せします」とニコリ笑う彼が、頭によぎる。
再びステージ上の彼は、BTSのJIMINに戻っていく。
楽曲は終盤に差し掛かる。
バックダンサー裏に隠れたジミン。埋もれた先から登場すると、あっという間に全身の衣装が変わっていた。
濃い紫のスーツ姿だ。
僕は今まで君が見たことがない 新しいフィルター僕だけで埋め尽くして もっと刺激的なものを新しいフィルターで見られるように僕の心を君に重ねて
彼は、腰を低く落としては、左右に振る。
圧倒的な男の色っぽい目線を、フィルター越しの「私たち」に送りつけながら。
自分好みに着せ替えをする人形のように愛らしい彼は、そこにもういない。
奥底に閉じ込めた、何かがうずく。それはまるで本能的で解放してはいけないものだと思うのに、彼と目線が合うその途端、抗えなくて、恍惚とした世界に飛んでいってしまう。翻弄されているのは、自分だと気づく。
「yeah」とドスの効いた低い声が響く。
中毒みたいに、心はずぶずぶに侵されていく。彼の魅せるエロス漂うこの甘美を知ると、抜け出せなくなる。
ジミンのその姿に、酔いそうだった。
10月10日、11日に開催されたBTSのオンラインライブ『ON:E』。それはJIMINのソロ曲『Filter』で魅せた、パフォーマンスのひとつ。
・・・・・・・
“BTSのすてきなところ”を書き始めて、もう十数本の記事をUPしている。ジンペンな私はやっぱりジン君のブログが多い。
次に多く書いているのは、ジミンについて。それは何故かと考えていたら、上記の楽曲が見事に答えをくれた。
ジミンは、きっとクリエイティブを刺激する人なのだと思う。
もしBTS7人のアートディレクションを担当するとして、でも担当できるのは一人だけなら誰を選ぶ?という選択肢があったら、私は迷わず、ジミンを選ぶ。
こちらが考えたアイデア通り、求められる何者にも化けては染まってくれると思う。さらに、想像を上回ったパフォーマンスとアイデアを披露してくるんじゃないか、とも思う。そして私の頭の中以上の画が出来上がるように感じる。
テヒョンはきっと完璧すぎる気がする。ジミンには隙がみえる。その隙をうめたくなってはウズウズする。
この人と「画」のなかモノづくりの空間で遊んでみたい。そんな欲求に駆られるのは、ジミンだ。
「BTSの曲の中であなたを最も自分らしく感じさせる曲は何ですか?」というその問いに、ジミンは『Filter』をあげた。
彼は、いつでも私たちの求めるものは分ってますよ、と笑顔で言わんばかりに、ステージ上で画面越しにさまざまな顔を見せてくれる。板の上で抜群のダンスを披露しながら官能的な表情を、vliveでのかわいらしいくてあざとい顔も然り。
ジミンは、もともとカラフルで明暗たくさんの色がある人だと思っていた。なるほど、彼自身は「無色」なのか。いやそういてくれているのか。そしてなんと、それが「自分らしい」のか。
私たちが求める色にいつも染まっては、フィルター越しに圧巻のパフォーマンスを魅せる。私たちの欲望に「OK」と囁きながら、予想を上回るパフォーマンスをみせつけてくる。それはまるで、天性のアイドルじゃないか。
近頃オフィシャルでBTSについて記事を書くとき「アーティスト」と記載されることが多い。けれど無色な自分が自分らしいと語るジミンは、きっといつだって「アイドル」でいてくれる人だ。
そして、アイドルとしての美しさには、時間にきっと限りがある。
私はジミンを見ていると、そんな儚さが漂っているようで、たまに胸が締め付けられる。
自分をその時々何色にも染めて、削るかのように舞台に立つ彼は、刹那的であり、とてつもなく甘美だ。
この一瞬が、いつも美しいひと。
「何が欲しいの?」と囁く、そんなジミンの甘美な世界に、私は身を委ねては侵されたい。ファンの期待に応えますと話すアイドルは知っても、何色にも染めなよ、とパーフェクトにその欲望に応え、本能にまで訴えては悶えてしまうくらいに翻弄するアイドルを、私は今まで知らなかったから。
類稀なるアイドル・JIMINを知った私たちは、ジミンにもう、抗えない。